第4章 不器用でも(田中龍之介)
「あの....やっぱり私が....」
「ちょっと待ってろって!こうやれば.....」
近づくとそんな会話が聞こえてきて眩暈がしそうになる
その一年生は監督から期待のホープだと言われている
正直私もそう思う
事実私たちが勝ったのは彼女が途中に突き指で抜けたから
そうじゃなければ負けていたかもしれない
にしても、兄さんがこんなにテーピングが下手だったとは
「確かこうで.....いやこうか!?」
『一人のテーピングに何分かかってるの?に・い・さ・ん?』
「げっ..!....!」
『一年生を困らせないでよ』
私は無理矢理兄さんを押しのけ滅茶苦茶なテーピングを手直した
「ありがとうございます」
『ううん。ごめんね、うちの兄さんが』
一年生が練習に戻ったのを見送ると私は兄さんに向き直った
『兄さん?』
「あっとその....悪い」
『はあ、良いよ。もう部活終わるから一緒に帰ろ』
「!....おう!」
不器用でも
大好きな兄さんだから