第3章 オヒメサマ
それにしても、この服は無駄に装飾品が多いような気がする。
一見、白いワンピースのように見えるこの服だけど、胸元に施された蒼茫の宝石や、散りばめられた極小のダイヤモンド、肩口から首にかけて伸びる紅の刺繍や腰回りに映える造花は、まるでドレスのようだ。
私には正直心苦しいほどの豪華なもの。身に余るというのはこういうことを言うのだろう。
なんとか煌びやかなそれを外すことはできないものかと悪戦苦闘をすること十数分。
残念なことに青い宝石は取り外しタイプではなかったらしい。無論ほかの装飾品、おもに刺繍などはとれるはずも無く。これ以上試行錯誤すると服そのものに傷をつけてしまうかもしれないので、漸く私は諦めた。白いワンピースは想像通り質のいい絹製の布でできていて、肌にしっとりと馴染む。
ワンピースに着替えた私はまたベッドにもぐりこみ、天井を見上げる。
『』
それが、私の名前で、そして私が覚えていた唯一の記憶。どうして倒れたのかも、自分の生い立ちすらも知らないし分からない。母は?父は?兄弟はいたのだろうか。何一つ覚えていないけれど、それで悩んだ事は無かった。特に知りたいとも思わなかった。生きていればそれでいい、そう思っていた。