第1章 娼婦
「城下の人形道具とは、お前のことか」
「はい」
特に躊躇わずに答えると、彼は珍しいものを見たとでもいうような顔をした。
肯定したのが意外だったのだろうか。
そして彼は直ぐに表情を戻すと、また呟いた。
「面白いな」
「・・・」
「お前、名は」
「です」
「・・・?」
今度は眉を顰められる。
なんだっていうのだろう。
こういうことは慣れているとはいえ、少し気になるというのが本心だった。
「ファミリーネームは?」
「・・・覚えておりません。
私は、一か月より前の記憶がありませんので」
そういうと、また彼は考え込むようなそぶりをする。
周りの人たちが、少し焦ったような、それでいてどこか羨むような眼差しを向けてくるのが分かった。
そういえば、この人はいったい誰なんだろう。
「・・・・いや、そんなわけない、か。」
どこか自身に言い聞かせるようにつぶやくと、
「といったな」
「はい」
「お前を買う。
おい、いくらだ」
彼は金髪の髪を揺らして、店のオーナーに声をかけた。