第1章 娼婦
「・・・本当に憎らしい人」
彼女の低い声が漏れる。
怒っているらしいと察したものの、私のどの発言が彼女の気を悪くさせたかが全く分からない。
「つきました、ここが今日から様の自室となります」
彼女がいきなり足早に歩き始めたので、私もそれにおいていかれないよう足を速めて彼女の後に続く。
そうすると、私から見て右手側の扉の前で立ち止まった彼女が私を一見して冷たく言った。
「御用は完了いたしましたので」
口早に言うと、彼女は颯爽とその場を去ってしまった。
私は彼女の後姿を見ながら、感情というものの難儀さをありありと痛感させられた。
ドサリ、と大きなベッドに倒れ込む。
フカフカのシーツに身を預けると、疲労がどっとあふれでた。
どうやら、昼間会った金髪碧眼の彼が、私の故郷と聞かされたこの国、ロスタリア国の第一王子らしい。
金色に艶めく髪の一房は胸元まで伸ばされ、翡翠色の瞳はまるで水晶のように透き通っていた。
優しげな顔をしているのに、言い方はどこか冷たくて、厳しい。
王子と呼ばれたその人のことを考えていると、不意にドアが開いた。
彼だ。
王族専用の純白に輝くマントを肩にかけながら、彼が私をちらりと見やった。