第1章 1
「兄様……!あ…」
天がその場にドサッと倒れ込む。段差に躓いた?
すぐに抱きかかえようと天の体を抱き起こす。
「大丈夫か?気をつけ…」
天の体―背中辺り―に触れた途端手にヌルっとした感触がした。
手を見ると手のひらが真っ赤に染まっていた。
「……!!!???あ、天!?!?何が…!!」
真っ赤な血で染まった手を天は強く掴むと、言った。
「…兄様!こ、…ここに居ては危険です!!」
天は激しく咳き込む。口の端から血の筋が一筋伝った。
「は、早く……お逃げくださ、…私は大丈夫です!」
何が何だかわからない。
必死に何か考えようとするが、何かに縛られたように頭の中は真っ白で何も浮かばず、天に掛ける言葉もわからず、ただオロオロとするだけだった。
「兄様!わ、た、…私は置いて早く…早くお逃げください!」
その時、背後にとてつもない殺気を感じ振り返る。
長い艷やかな黒髪の女がたっていた。とてもおとなしそう顔立ちをしている。何処かで見た?
「おやおや、兄妹お揃いでいたとは。とても運がいいねえ。さっ、早く終わりにしましょ?。」
女はケラケラと、その見た目とは遥かに程遠い下品な笑い声を上げた。
女は腰にさしていた鞘から細い刀を抜いた。
「ではご機嫌よう。お兄様」
凍りついた様に手足が動かない。とてつもない恐怖と負の感情が混ざりあい、釣り上がった目を見開き、刀の先端を見ていることしかできなかった。
刃が首目掛けて横に流れていく。
天の叫び声が聞こえた。
一瞬
意識と視界が途切れた。