第32章 -誕生日-(黄瀬涼太)
「やっぱり黄瀬くん、雨男〜‼︎」
「オレのせいじゃないっスよ〜!」
「ぜーったい黄瀬くんだよ!昨日までは晴れてたもん。コレで3年連続じゃない?」
梅雨真っ盛りの6月、昨日までは梅雨の晴れ間が見えていて、季節外れの真夏日だったのに、今日…6月18日は昨日から一転、一日中曇り空で、今は雨も降り出していた。
自主練も終わって帰ろうとしたが、さすがに傘無しで帰るのはキツい降りっぷりだ。
わたしが持っていた折りたたみ傘を広げようとすると、黄瀬くんはサッとわたしから傘を取り上げ、わたしの頭上へ差し出した。
「どーぞ。お姫さま♪」
「……っ⁈また入る気〜?こういう時だけ調子いいんだから〜。」
「これも3年連続っスね♪」
黄瀬くんが帝光中バスケ部に入ってきたのは中2の時。その中2の6月18日から…黄瀬くんの誕生日は、なぜだか必ず黄瀬くんと帰っていて、なぜだか必ず雨が降っていて、なぜだか必ず…今日のように相合傘をして帰っていた。
「そうだね。あ…お誕生日おめでとう。」
ほんとは誕生日のこと、毎年何日も前から意識しているのだけど、毎年今思い出したかのように黄瀬くんに言う。今年もそっけなく言ってしまった。
恥ずかしすぎて毎年ちゃんと言えない。
プレゼントなんて絶対渡せない。
受け取ってもらえないかもしれないし、引かれちゃったら…
「きづなっちーー。」
小さな折りたたみ傘のせいで、黄瀬くんはわたしの肩を抱き寄せながら、耳元で囁いてきた。
「な…なに⁈」
やっぱり恥ずかしすぎて、わたしはまっすぐ前を向いたまま返事をした……
「3年連続から…やめたいコトがあるんスけど…」
「えっ⁈」
はずなのに、黄瀬くんのことばに思わず立ち止まり、黄瀬くんを見上げてしまう。
一緒に帰るの…やめたいのかな…
迷惑…なのかな…
「オレ…きづなっちのコト、好きっス‼︎」
「え…?」
黄瀬くんのことばに耳を疑う。
今…好きって…⁈
「ただ一緒に相合傘で帰るだけなのは3年連続で終了!来年の誕生日…つぅか、今からは…オレの彼女として一緒に帰ってほしいっス!」
わたしは泣きそうになりながら、コクンと頷くのが精一杯だった。
「ほんとっスか?やったー!」
黄瀬くんは傘を投げ捨て、わたしをギューッと抱き締めてくれた。
---End---