第30章 -叫びたいけど囁こう-(黄瀬涼太)
〜〜♪
あっ‼︎
スマホからイヤフォン越しにランダムに流れる曲が、大好きな曲の番になった。大好きな先輩に教えてもらって、わたしもすっかり大好きになったバスケアニメのオープニング曲。
思わず口ずさみたくなるのを我慢するけど、学校へ向かう足取りはさっきよりも軽くなる。
黄瀬先輩…会いたいなぁ。
”キミにこんなに夢中なコトに
ワケなんてないのにな”
この曲…やっぱり好きだなぁ。
自分の気持ちとつい重ねてしまう。
黄瀬先輩は、キセキの世代って言われていて、しかも、モデル。
でも、だから、スキになったんじゃない。
理由なんてないよ…スキなんだもん‼︎
「きづなっちー‼︎」
「きゃあっ‼︎…って…えっ⁈」
突然後ろからイヤフォンを外され、ビックリして振り返ると、ホンモノの黄瀬先輩がいた。
「黄瀬…先輩…?」
「きづなっち、そんな叫んでひどいっス〜‼︎」
「ご…ごめんなさい‼︎だって、急に…」
わたしが慌ててしまうと、黄瀬先輩はさっきまでシュンとスネた子犬のようだったのに、急に大人っぽい表情になって、わたしの頭をポンポンとしてくれた。
「久しぶりっスね。ちゃんと元気だったっスか?」
「…っ⁈は…い。あの…なんで…?」
「今日は仕事っス。雑誌の取材、帝光でするコトになって。つぅか、きづなっち、何聴いてたんスか?」
「え…?あの…」
わたしがこたえる前に、黄瀬先輩はわたしのイヤフォンを耳に入れた。
「あ‼︎コレ‼︎オレもスキっス‼︎コレ、めっちゃオレの気持ちなんスよ‼︎」
「え?」
「オレの心ん中見て作ったんじゃないかって思うくらいなんスよね〜。」
黄瀬先輩は、ちょっと貸して?と、イヤフォンの先を辿り、わたしのブレザーのポケットからスマホを取り出すと、何やら操作をして、今度はわたしの耳にイヤフォンを入れた。
〜〜〜♪
”キミが好きなんだと叫びたい”
…っ⁈
黄瀬先輩が聴かせてくれたのは、さっき聴いていた曲のサビ部分だった。黄瀬先輩は、わたしの耳からイヤフォンを片方だけ外した。
「オレも叫びたいくらい好きなんス。でも、今叫ぶとさすがに目立つから…」
そう言うと、黄瀬先輩はわたしの耳元で甘く囁いた。
「きづなっちのコト…好きっス。叫びたいくらい好きっスよ。」
---End---