第29章 -おおかみvol.3-(氷室辰也)
「え…?」
好き…氷室先輩は、たしかに今そう言った。
好き…って…わたしのコト…?
「きづな?」
「…っ⁈」
…チュ。
わたしがポーッとしていると、氷室先輩に名前を呼ばれ、次の瞬間、肩を抱き寄せられ…キスをされていた。
おでこでもほっぺでもない…
唇に…。
「氷室先輩っ⁈」
わたしが真っ赤になって離れようとしても、氷室先輩はわたしを解放してくれず、わたしを抱き締めたまま、いたずらっ子な子どものような、でも、どこか妖艶な表情でわたしを見つめていた。
「…イヤだった?」
「えっ⁈あっ…」
イヤじゃない‼︎だって…氷室先輩のこと…
「この間から言ってただろう?オレだってオオカミだから。」
「…っ⁈ちゃ…ちゃんと…返事聞いてからって…」
「あはは…ごめんごめん。でも、きづなの表情で、勝手に判断しちゃったからさ。」
「なっ…⁈」
嬉しかったけど、テンパってしまって、まだちゃんと気持ちを伝えられていないのに‼︎そう思って、少しだけ反論したのに、氷室先輩はサラリととんでもないコトを言ってみせた。
「間違ってたかい?」
「…っ‼︎ま…間違ってないですっ‼︎」
氷室先輩に耳元で囁かれ、わたしは思わず氷室先輩にギュッと抱きついた。
「きづな?」
「好き‼︎…氷室先輩のコト…わたしも好きです‼︎」
「ありがとう。」
氷室先輩も、ギュッとわたしを抱き締めてくれた。
「でも…」
わたしは氷室先輩の腕の中で顔をあげ、氷室先輩を見つめた。
「なんだい?」
「他の人にはオオカミにならないでくださいね?」
「…っ‼︎」
わたしは恥ずかしくて、顔を隠したくて、すぐに氷室先輩の胸に顔を埋めた。
「心外だなぁ。なるわけないだろ?」
氷室先輩はそう呟くと、今度はわたしの耳元で囁いた。
「オオカミになるのは、きづなにだけだよ。」
とてつもなく甘い甘い声で…。
---End---