第16章 -おおかみvol.2-(氷室辰也)
「きづな?どうかした?」
「えっ⁈いえ‼︎」
「なんかボーッとしてるからさ。今日の練習疲れた?」
「すみません‼︎そんなことないです‼︎」
部活後…本屋さんに行きたいからそのついでだよ…と、今日も氷室先輩が送ってくれていた。
この前送ってくれてからも、氷室先輩は相変わらず優しくていつも通り…。
だけど、この前の氷室先輩のあのことばが忘れられない。
狼…?わたしを…食べたい…?
まさか…ね…冗談だよね…
そもそも氷室先輩は紳士だもん‼︎お…おおかみとか…そんなコト…
でも、ふとおでこにされたキスを思い出してしまう。
お…おでこだし…深い意味はないんだよ‼︎
氷室先輩、アメリカ帰りだし…アメリカではきっと普通のコトなんだよ…また、そう自分に言い聞かす。
でも、自分でそう思うのに、少しだけ淋しくなってしまうのは、なんでだろう…?
「きづな?…きづな?」
「はい‼︎…きゃっ。」
名前を呼ばれてハッとすると、目の前に氷室先輩のキレイな顔があり、テンパってしまう。
「どうしたの?具合悪い?」
「い…いえ‼︎そんなこと…‼︎」
「もしかして…この間のコト思い出してた?」
「…っ⁈」
突然の氷室先輩のことばに、わたしは真っ赤になって、声が出せなくなってしまう。
「その顔は図星かな。」
もう夜なのに、街灯に照らされたわたしの顔は頬の赤みを隠せなかった。
「あ…あの…ごめんなさい‼︎」
「なんで謝るんだい?」
「だって…冗談だってわかってるのに…わたし…」
「冗談?」
「…っ⁈」
氷室先輩の目が光ったような気がした。
わたしはドキドキしすぎて、近づいてくる氷室先輩から離れられなくなる。
「心外だな。オレが冗談なんか言うと思う?」
…チュ。
「…っ⁈氷室…先輩…?」
少し声色がキツくなった氷室先輩に今度は頬にキスをされた。
「まぁ、少しでも意識してくれてたなら、進歩かな。」
「え⁈あ…あの…」
「ふふ…。一応ちゃんと返事を聞いたら、きづなの唇をもらうつもりだよ。いくら狼でも、きづなはオレのコト、紳士だと思ってくれてるみたいだし。」
氷室先輩は優しくわたしの頬を撫で、ハッキリと言った。
「好きだよ。きづな。」
---End---