第9章 -先生だって恋をする-(岩泉一)
「岩泉先生、わたし、ココで待機してますから。岩泉先生も生徒たちと海に行ってきてください。」
「ん?あぁ…まぁ…」
ロビーで新聞を読んでいる岩泉先生に声を掛ける。
バレー部合宿最終日の午後…せっかくの海合宿ということもあり、午後だけは自由時間だった。
あれだけ動いた生徒たちはまだまだ元気で、皆はしゃいで海に行ってしまった。
「きぃ先生も行こうよ!」
「そうだよ‼︎きづなちゃん、水着水着♪」
「きづなちゃん、やっぱビキニだろー?」
「そうそう‼︎すんげぇの着て!大人だろっ⁈」
「あのね〜。先生をからかわないのー。先生は水着は着ません!ほら、早く行かないと自由時間終わっちゃうよ?」
海に行ったはずの生徒たちが何人か戻ってきて誘ってくれるけど、副顧問とはいえ、慣れない合宿で疲れたし、もう若くないから体力ないし、そもそも、生徒たちの前で…あの人の前で水着になんかなれるわけがない。
「えぇ⁈」
「じゃ、あとでビーチバレーとスイカ割りは一緒にしようね!岩泉先生も!」
からかう男子生徒は一蹴したけど、マネージャーの女のコたちのことばには頷いて、わたしは生徒たちを見送った。
「着ねーの?」
「え⁈」
”キネーノ”??
生徒たちを見送り、涼しいロビーで読書でも…と、岩泉先生の向かいのソファに座ろうとすると、突然岩泉先生に話し掛けられる。
「あの…?」
岩泉先生…”主語”もお願いします…とは言えない。
岩泉先生のことばに頭にはハテナマークばかり浮かぶ。
「…水着。」
「…っ!?!?えっ⁈」
主語はわかったけど、また新しいハテナマークで頭が溢れ、わたしは何も言えなくなってしまう。
「…♪(面白れぇ反応♪)オレも見てぇんだけど…おまえの”すんげぇの”♪」
岩泉先生は読んでいた新聞を折りたたむと立ち上がり、わたしの横へ来て耳元で囁いて、わたしの肩をポン…とする。
「気が向いたらオレにだけ見せろよ?」
そう言って笑みを浮かべた岩泉先生は、そのまま部屋に戻ってしまった。
な…な…なんなのっ⁈
い、今までからかうことはあったけど…あ…あんなに…色気たっぷりで言われたら…
わたしはソファから立ち上がれず、ただひたすら火照った顔を手であおいでいた。
---End---