第40章 -ジャージ-(岩泉一)
「英〜っ♪まだ気付いてなかったのー?」
「おわっ…⁈」
「え⁈…ハジメ先輩っ⁈」
体育館から合宿所に戻ったところで、いきなり腕を引かれ、後ろを振り返ると、きづながオレの腕を掴んでポカンとしていた。
「きづな?」
「すみませんっ‼︎英と間違えて…」
あっという間にきづなはオレの腕から離れてしまう。二人きりだと甘えたのきづなだけど、学校では必要以上にベタベタしてこない。
「あ?国見と…?」
後ろ姿でも…国見と似てねぇと思うけど…
つぅか、こいつ、いつも国見にこんなコトしてんのかよ…。胸…当たってたじゃねーか。
「あの…そのジャージ…英のですよね?」
「いや、オレのだけど…」
「でも、首元…」
「…?」
きづなに言われて首元を触ると何かが付いてる感触があり、ジャージを脱いで首元を見ると、オレにも国見にも似つかわしくないピンクのリボンのヘアピンが付けられていた。
「昨日の夜、英のジャージにこっそりリボン付けて…それで、今、向こうの角から一瞬リボン付いた後ろ姿が見えたから、英だと思っちゃって…。」
「国見が間違えてオレの着てったんだろうな。」
練習後、監督とコーチと明日の練習メニューについて話すため、オレだけ体育館に残っていたから、体育館を出る時には、この一着しか残っていなかったので、オレのだと疑いもせずに袖を通した。もちろん、首元なんか見ていない。
「英のヤツ、まさか気付いててわざとじゃ…。英、こういうのすぐ気付くからなぁ…」
きづなは、よくわからない考察を一人でしているが、正直オレにはそんなことどうでもいい。
「昨日の夜…国見と一緒だったのか?」
「…?はい。荷物いっぱいになっちゃって、英のバッグに入れちゃえと思って。で、ついでにリボン付けたんです♪」
「…。」
きづなと国見は幼なじみで家も行き来したり、昔から仲がいいのは知ってる。知っては…いる。
「ハジメ先輩?」
「オマエ、いつも国見と一緒なんだろ?」
「え…?」
「じゃあ、合宿中くらい、オレと一緒にいろよ。」
そのまま合宿所に入らず、きづなの手を引いて、裏へ回る。
「妬かせんな…」
合宿中なのに、珍しく自分の感情が抑えられず、オレはきづなを抱き締めてキスをした。
---End---