第39章 Daylight
いつもと変わらない朝…
唯一違ったと言えば、普段は麦で黄ばんだ飯が、ほんのり赤く色づいていたことくらいだろうか…
俺は備え付けの引き出しから、着替え一式を取り出すと、丁寧に畳み直し、洗面器やら与えられた物全てを揃えて棚の上に置いた。
そして、これまで俺が受け取った手紙の数々を、一つ一つ確かめるように、大き目の封筒の中に仕舞った。
勿論、所々テープで張り付けられ、ボロボロになった手紙も一緒に封筒に仕舞い、封をした。
その時、廊下の向こうから、カツカツといくつかの足音が聞こえてきて、その足音はやがて、俺の収監されている房の前でピタリと止まった。
ジャラッと、一瞬金属が擦れ合う音がして、ガチャンと鍵が開錠された。
「時間だ、出なさい」
見知った顔に、どうしてだかホッとする。
「はい。あの…ちょっとだけ…、いいかな…」
一つだけ、やり残したことがあるのを思い出した。
「一分で…いや、三十秒でいいんだ、時間くれないか?」
俺の訴えに、二人の刑務官が顔を見合わせる。
そして、仕方ないとばかりに首を軽く振ると、
「一分だけだぞ? それ以上は許可出来んぞ?」
そう言って、ほんの少しだけ顔を綻ばせた。
「ああ、ありがとう…」
俺はベッドから腰を上げると、窓辺に立ち、壁の傷を指でなぞった。
「マサキ…、ありがとうな…。俺、お前がいなかったら、きっと全部投げ出してたよ…。何もかも諦めて、未来なんて考えることもしなかっただろうな? お前がいたから…俺は…」
どんな痛みにも、苦しみにも耐えて来れたんだ。
マサキ、お前が俺の傍にいてくれたから…
「マサキ…、愛してた…」
俺は冷たい壁に口付けると、窓の外に目を向けた。
格子越しに見る空も今日で最期か…
そう思ったら、感慨深ささえ感じた。