第30章 Suspicion
「し、知らないなら、知らないで別に構わないんだ。ただちょっと気掛かりなことがあってね…。それで君に、と思ったんだが…」
松本の返事を待つ時間がやたらと長く感じて、俺は急かすように早口で捲し立てた。
俺の思い過ごしだったんだ。
そうだ、予感が外れることだってあるさ…
いや、寧ろ外れてくれて良かったんだ、その方が俺にとっては…
内心ホッとすると同時に、俺はソファーから腰を上げた。
そして松本の手から写真を引き取ると、また胸のポケットに仕舞った。
「忙しいのに済まなかったね。また何か思い出したことがあったら…」
「あんた…その写真の男を知ってるのか?」
「えっ…それはどう言う…?」
「言葉通りの意味だ。あんた、この男とどんな関係だ?」
ソファーの端に大きく足を広げて浅く座り、松本が俺をまるで睨みつけるかのように見上げる。
「それはその…」
言えない…
まだ言うわけにはいかない。
「だから言ったろ? ちょっと気になった、って…。それにその写真の人は、俺とは何の…」
「こいつだよ…。こいつが俺に例の話を持ちかけたんだ」
嘘…だろ…
「ほ、本当にこの人だったのか? もう一度良く見て…」
一度は胸ポケットに仕舞った写真を出し、テーブルに叩き付けるようにして置く。
「確かにこいつだ。間違いない」
瞬間、俺の全身から血液という血液が零れ落ちて行くような…そんな気がした。
『Suspicion』ー完ー