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【HQ/R18】二月の恋のうた

第29章 ★プロムナード


まただ、と嘆息した。
また同じ夢を見ている、と。

「若利くん」

ベッドの上、一糸纏わぬ姿で片膝を立てた天海が、誘うようなポーズと瞳で俺を呼ぶ。

「早く挿れて」

クスクスと掠れた笑声。
艶やかな唇は緩い弧を描く。
同時に、彼女はシーツから離した指をゆっくりと自らの秘所へ運び、呻くような小さな声を挙げて中へ沈めた。

「んっ…ぁ、ねぇ、早く…欲しい、のっ…若利くんのが。…んっ…若利くんも、私が欲しいでしょ?」

くちゅり、と水音。
喉の渇きを覚えて生唾を飲めば、
「ナンセンスな質問だよ、天海!」
なぜか俺以外の返答が真後ろから。

「答えはノーだってさ、天海。牛島クンはアンタなんてもう要らないって」

要らない?

俺は背後へ向き直る。
出まかせの発言を口にした相手――天海の“先輩”への憤りのままに。

天海は、要らない人間などではない。
確かに、別れはした。
だが、その存在を不要だなどと思ったことはない。
今までも、これからも。

“先輩”は、嗤っていた。
攻撃的な表情で。

「違う? でーも残念。天海の方は、アンタなんてもう要らないってさ」

主語を変えた“先輩”が、顎をしゃくるようにして俺にもう1度天海を見ろと促す。
振り返った俺の目が捉えたのは、いつの間にか遠のいていたベッド、そこに座した男の胡座の上で恍惚な表情を浮かべた天海の姿。

「ぁ、ぁっ、イイ…!」

こちらに背を向ける男が誰なのかはわからない。
誰であっても関係ない。
俺以外だということ、その事実に俺は頭を殴られたような衝撃と目眩を覚える。

「はぁ、ぁ、そ、そこっ、気持ちイイ!」

響く嬌声が神経を抉るように蝕む。
違う。
天海じゃない。
天海はこんな風に、俺以外の男になど――。

「ぁ、ぁ、好き、若利くんより、あぁっ、好きっ」

好き。
その一言に、俺は「やめろ」と叫んだ。

叫び――同時に目を開けた。

悶える天海は消え去り、代わりに薄暗い闇が眼前に広がる。荒い息を何度か吐き出して、腕で瞼を覆った。

まだ寒い2月の夜気。
だが、衣服の下も部活後のように汗びっしょりだった。

「…ありさ」

絞り出した声で、何夜目になるだろうか、今日もまた俺は忘れ得ぬ女の名前を唱えた。
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