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【庭球・BL・海不二】黄昏に映える人

第2章 その一言が忘れられない



「それで。どうしてこんなとこに?」
「…トレーニングで…」
「海堂の家って、ここら辺なの?」
「いえ…ランニングしてて…」
「あぁ…。海堂は頑張り屋さんだね」

 にっこりと不二先輩は笑う。
 笑顔の似合う人だと思う。
 俺なんかに笑いかけるのは、もったいないんじゃないかと思うぐらいだ。

「不二先輩だって…」
「え?」

 不思議そうな先輩に、俺は入学式の朝の話をした。
 早朝から、練習をしていることを。
 すると、先輩は少し困ったような顔をする。

「見られちゃってたんだ…」

 何かいけないことをしたのだろうか、と不安になる俺に、先輩は続けて言った。

「内緒にしててくれないかな…このことは」
「…?」

 先輩の言っている意味がわからなくて、俺は先輩を見上げた。

「朝練習してたことと、今日ここで僕が素振りしてたこと」

 どうして、と聞く前に、不二先輩は苦笑しながら言う。

「格好悪いでしょ? 天才がこんなに練習してる、なんてバレちゃったらさ」

 天才って言われてるのに…ぽくないじゃない。
 先輩は、笑ってそう言った。
 俺には、どこが格好悪いのかわからない。
 練習なんて…して当たり前だ。
 でないと、上手くは、強くはなれない。
 どうして隠す必要があるんだろう。

「天才だって…努力なしじゃ、やってけないと思うっスけど…」

 努力なんて、して当然のことだ。
 そうだろ?
 努力なしには、何も得られないんだ。
 それは、俺が一番良く知ってる…。
 俺の言葉に、先輩は一瞬変な顔をして、また笑った。

「そうだよね。天才だって、努力はするよね」

 不二先輩はとても可笑しそうに、クスクスと笑った。
 俺には、どうして先輩が笑うのか分からなかった。

「ありがとう、海堂」

 どうして、礼を言われるのかも。

「あの…」
「でも、内緒だよ?」

 僕とキミだけの、秘密だよ――――。
 不二先輩はそう言って、にっこり笑う。
 俺がこくりと頷いたのを確かめて、先輩は再び練習を始めた。

(………)


 俺は少し離れた場所で、ストレッチをすることにした。




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