第12章 黄昏に映える人。
「笑い方、変だった?」
「なんていうか……全然笑ってない、みたいな…」
「へぇ。今は、どう?」
「……今も、変っス」
「え?」
変なの?と思ったときだった。
おもむろに海堂が僕の両頬を片手でむにゅんと摘んだ。
「アンタ…ニヤけすぎっス」
「んっ?!」
びっくりして目を見開くと、海堂は「あっ」と声を上げてすぐその手を離す。
「…すんません」
「う、ううん…ちょっとビックリしただけ」
「なんか…葉末…えと、弟みたいだったんで…」
弟…か。
そんな風に言われるのは初めてで。
すごく新鮮なんだけど。
弟かぁ…。
ちゃんと自覚してくれるまで待とうと思ったけど…もしかして、かなり遠い道のりなのかも。
「じゃあ…僕と、弟くん以外にはこんなことしないでね?」
「しないっスよ…」
「ふふふ」
それから僕たちは、一緒にウィンブルドンの試合のDVDを見て過ごした。
帰り際には、今度は海堂の家で違うDVDを見る約束を取り付けた。
『じゃあ、また明日』
『っス…』
『――ねぇ、海堂』
『…はい』
『好きだよ』
『…知ってるっス』
小さく笑うその顔。
三白眼の鋭い目つきが和らぐ瞬間が大好きで。
僕は今日のこの日を絶対に忘れない。
そして。
君の口から言わせるんだ。
『不二先輩が…好きっス』
ってね。
「明日から…楽しくなりそう」
遠ざかる海堂の背中を見送りながら、僕は一人呟いた。
End