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【庭球・BL・海不二】黄昏に映える人

第11章 儚きものが散りゆくは。


「っか、ぃど…?」

 驚いた声に、俺ははっとして不二先輩から離れた。
 俺を見上げるその顔が、真っ赤に染まっていて。
 それを見た瞬間。
 自分の頬がカッと熱を持ったのがわかった。

「あ…っ…す、すんませんっ…!」
「かいど…」

 俺はその場から、逃げた。
 後ろで、不二先輩の戸惑った声が聞こえた気がした。
 それでも、俺は振り返ることなく、走った。

 走って、走って。

 いつもならバスに乗るところを、そのまま通り過ぎた。





 顔が熱い。
 体が熱い。
 わからない。
 どうして俺はあんなことを?

 今にも泣き出しそうな不二先輩を見て。
 俺は何をしたかったんだ?


 走りながら、何度も自分に問いかける。
 いくつものバス停を通り過ぎて。
 気づけば家にたどり着いていた。

 母さんがびっくりして何か言っていたけど、俺はそれに答える余裕なんかなくて。
 自分の部屋に入って、ドサリと鞄を下ろして。

「っはぁ、はぁ…」

 上がった息を整えようと何度も大きく息を吐く。
 肩を上下させながら、自分の両手を見つめた。

 そうだ、あのとき。

 触れたい、と。
 そう思った。

 そして耳まで真っ赤に染まった顔を見たとき。
 心臓が止まるかと思ったんだ。








 その日、俺の頭の中は不二先輩のことばかり。
 昼間のことが思い出されて、中々眠ることができなかった。
 朝のロードワークも、サボってしまった。


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