第10章 耐えられない想いは重く。
苦しい想いは一向に晴れないまま、僕は正月を迎えた。
このときばかりは、どんな人であっても誰もが新しい年を心新たに迎えるものだと思っていたけれど、そうではないらしい。
部活が30日に終わり、31日は家の大掃除。
たった一日、海堂を見ないだけなのに、元旦のテニス部全員で行く初詣が楽しみで仕方ない。
そんな気持ちと、もやもやした想いがごちゃ混ぜになって、僕は朝から大きなため息をついていた。
待ち合わせ場所は鳥居の隣にある大きな石の前。
なにかの石碑だったとは思うけど、すでに色褪せていて文字は読めない。
目的地が見えてきたところで、僕は人影に気づいた。
海堂だ。
海堂が待ち合わせ時間よりも早く来ることは皆知っている。
もちろん、僕も。
つまり僕は、海堂に会いたくて…予定よりも早く家を出てしまっていた。
どうしようか。
なんて声をかける?
あけましておめでとう、その後は?
悩みながらも、僕の歩幅は少しずつ大きくなって。
海堂の元へ急いでしまう。
「あけましておめでとう、海堂」
「あ…おめでとうございます」
ぺこり、と頭を下げて海堂が言い辛そうに「今年もよろしくお願いします…」と言うものだから、なんだかそれが可愛らしくて笑ってしまう。
「ふふ。うん、よろしくね」
その照れたような顔、好きだな。
「昨日は大掃除手伝ったの?」
「ッス。換気扇とか、窓ガラスとか…」
「偉いね」
「ちゃんとしかねぇと…トレーニング、行かせてもらえないんで」
「なるほど。お母さん、しっかりしてるね」
海堂とお母さんのやりとりが目に浮かんで、僕はまた笑った。
会ったことはないけれど、きっととっても優しいお母さんなんだろうな。
そう思っていると、じーっと海堂が僕を見ていることに気づいた。
「…僕の顔に、何かついてる?」
「あ、いや……」
少し迷うような素振り。
それは、海堂が言葉を探しているときに見せる仕草。
「なぁに?」
何を言いかけたの?
僕は君の考えていること…全部、知りたいな。
「…何か、良いことあったんスか?」
海堂の言葉に、僕は目をパチパチと瞬かせた。
良いこと。
それはきっと、今、君と一緒にいられるからで。