第6章 あと少し。
「あとね~、こんなのあるんだけど。欲しい?」
ピラピラと海堂の目の前でヒラつかせるのは、その猫の写真。
こっちを向いているのとか、後ろ姿とか、歩いてる姿とか。
「ぐっ…」
すっごく欲しそうに、海堂は写真を見る。
喉から手が出るほど欲しい、みたいな顔をしてる。
「あげようか、これ――――」
そう言おうとした瞬間。
「危ない、不二!」
「え…?」
鋭い声がして、僕は後ろを振り返ろうとする。
「不二先輩!」
海堂の声と共にぐいっと引き寄せられる。
「ぅわ…っ」
その体が出会ったときとは違って、少し逞しくなっていた。
そんなことを一瞬思ったあとに、僕の後ろでガッシャーン!と凄い音がした。
「な、なに…?」
びっくりして振り返ると、立てかけてあった金バシゴが見事に倒れていた。
「大丈夫か?!不二!」
大石が駆けつけてくるのが見えて、僕は接近した海堂から離れる。
「うん、大丈夫だよ。海堂が引っ張ってくれたから」
「そうか…良かった…」
それにしても…どうしてこんなところに金バシゴが…?
僕の疑問には、手塚が答えてくれた。
「どうやら、先週のコート整備で業者が入ったときに置き忘れていったものらしい」
そっか…。
海堂がいなきゃ、僕、一体どうなっていたことやら…。
僕は海堂を振り返って、にこりと笑いかけた。
「ありがとう、海堂」
礼を言われ慣れていないのか、何だか照れくさそうに海堂は首を振った。
それよりも…と僕の方を見て、
「怪我…ないスか?」
と僕を気遣ってくれた。
「うん、おかげさまで」
本当、海堂のおかげだよ。
「お礼の印に…猫の写真、あげるね」
「…あ、ありがとうございますっ…」
ふふ、たったそれだけで嬉しそうにしちゃって…。
剣呑な表情に埋もれて、表立っては出てこないものの…。
海堂はくるくると表情が良く変わる。
ほんの少しの違いだけれど…。
それがわかれば、笑顔もちゃんと見えてくる。
それに周りが気付けば、きっと海堂は人を惹き寄せるようになるに違いない。
…僕が君を、変えてあげようか――――?