第21章 【番外編】恋に落ちる(国見英)
俺が原因でこんな事になってしまったのに、橋口さんは俺を責めるわけでも、梨花を責めるわけでなく、凛とした立たずまいでいた。
遅れてやってきた店員が橋口さんにタオルを渡し、濡れた床を拭こうとするが、それを制止し、店員からタオルを取り、自分で濡れた床を拭いた。それにハッとし、俺も濡れた床を掃除すべく屈んだ。
「いいよ、一人で出来るから。」
「いや、原因は俺だし、俺がやります。」
「別に国見が悪い訳じゃないじゃん。いい経験出来たし。」
「…いい経験?」
「修羅場!って感じの。水掛けられるとかドラマだけの話かと思ってたけど、現実にあるんだね。」
そう言って橋口さんは笑った。
梨花の影響もあって、綺麗な人は皆梨花みたいな奴だと思っていた部分があったから、そう言って俺に気を遣わせまいと陽気に振る舞う橋口さんのその笑顔にストンと恋に落ちた。彼女なんて面倒だし、梨花みたいな奴に振り回されるのは懲り懲りだと思っていたのに、橋口さんはすんなりと俺の中に入って来た。岩泉さんは見た目で人を判断するような人じゃないとは思っていたけど、橋口さんの容姿に惹かれて特別扱いしてるんじゃないかと思ってる所もあったが、岩泉さんが橋口さんを特別視する理由が分かった気がした。この人は、見た目だけじゃなく、内面も真っ直ぐでいて、綺麗な人なんだと。