第10章 恋、気付く時(ヒロイン視点)
「賢太郎帰ろう。」
「今日サークルねえだろ。」
今日はいつも使ってる体育館が点検の為サークルはお休み。賢太郎と帰るのはサークルに行く日だけ。サークルに行かない時は一君と及川と三人で帰ることが多かった。二人が居残り練習する時は国見と金田一。賢太郎とは別に家が近いわけでも通り道なわけでもないから、一緒に帰るのはサークルに行く日だけだったんだけど。
「一君、彼女出来たって。だから、」
その後の言葉を言う前に賢太郎は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。賢太郎のそれを見て遠くで及川がなんか吠えてる。及川、いつもうるさいけど、今日は一段とうるさい。別に一緒に帰るのは一君じゃなければ誰でも良かった。でも、今日は賢太郎と一緒が良かった。賢太郎はあんまり喋らない。こっちから話しかけなければ自分から話しかけてくることは殆どない。だから賢太郎といるのは楽。
「賢太郎と家が近かったら良かったのに。」
「毎日送らせる気だろ。」
「うん。」
ふざけんな、なんて悪態をつくけど、賢太郎はなんだかんだ言って優しい。
賢太郎と出会ったのは私が通ってるサークルで。たまにふらりとやってくる賢太郎に少し興味がわいた。他のサークルのメンバーから、部活で馴染めないらしいから練習だけさせて欲しいってたまに来てる高校生と聞いた。その、部活に馴染めないっていうワードが自分と重なって、私から声を掛けたのがキッカケだった。最初の頃はそりゃあもう邪険にされたし、噛み付かれそうな勢いだったけど、めげずに話しかけた。トスをあげた。練習に付き合った。部活って楽しいんだよ、って知って欲しくて。賢太郎がどこの高校に通ってて何が原因でそうなってしまったのか理由は知らなかったけど、チームというものに背を向けて欲しくなかった。いつか、必ず自分が必要とされ、互いに信頼しあえるチームと出会える筈だから。残念ながら私は選手としてそのチームには巡り会えなかったけど。