第6章 真夏の熱 ♥︎ 〜赤葦京治〜
真夏の体育館は、部活をする生徒達の熱気で更に暑さを増して、室内だというのにじりじりと体力を奪っていく。エアコンが存在しないこの空間で、誰も体調を崩さない、なんてことは有り得ないことだ。
今回もそれは例外ではなく。
『頭…痛い…』
マネージャーの心が、暑さに項垂れていた。
その様子には誰も気付く気配はなく、みんな一心にボールを追いかけている。
きゅ、とシューズが体育館の床を擦る音が幾重にもこだまして、それぞれの声が反響していく。
『頭冷やそう…』
そんな中、フラフラと体育館を出ていく心の姿を、遠くから見つめる人影があった。
心は水道の蛇口を目いっぱい捻って、首にかけていたタオルを濡らし、頬に当てながら座り込んだ。
「心さん…そんなじゃ、もっと体調悪くしますよ」
心が声がした方を見ると、スポーツドリンクを手にした赤葦が心を見下ろしていた。
『京治くん〜…練習は大丈夫なの〜??』
「大丈夫ですよ…少しくらい」
いいながら、赤葦は心の隣に腰を下ろした。
「これ、飲めますか?…少しでも飲んでおいた方がいいと思いますよ」
『ありがとう…ほんと、京治くんはお母さんみたいだね』
誰がお母さんですか…と、呟きながらも、赤葦は心がスポーツドリンクを飲むのをじっと傍で待っていた。
「きっと熱中症ですね…体育館は暑いから」
『かもしれないね…マネージャーがこんなだとダメだね〜』
申し訳なさそうに笑う心に、赤葦は少しだけ、むくれてみせた。
「マネージャーである前に、俺の彼女ですよ…」