第4章 貴方は私のヒーロー ♡ 〜及川徹〜
〜心side〜
私は今、とてつもなく困っています。
朝起きて、ご飯を食べて、いつも通りに家を出て。
いつもと同じ電車に乗ったはずなんです。
だけど。
[ーー…今朝の人身事故による影響で、列車の方30分ほど遅延しております…。お乗りのお客様には大変ご迷惑を…ーー]
車内アナウンスが、現状を告げる。
狭苦しい車内で押しつぶされそうな、私。
結木 心。
身長155cmほどしかない自分を心の底から恨んだ。
そして…一番、困っていること。
それは。
『ん…』
さっきから私の胸をまさぐる、手。
そうです、痴漢です。
怖くて声が出せないのをいいことに、調子に乗られています。
あいにく小さい私は、他の人から気付かれていないみたいです。
もぅ…怖いよぉ。
身動きが取れない私は、ただただ震えるばかり。
乱暴に動く手が、怖いから。
声なんてあげられたもんじゃない。
「君…可愛いねぇ…」
耳元で年配のおじさんらしい人の声。
この人が痴漢だと、すぐにわかった。
するすると手が太ももを撫でる。
ー怖い、怖い…。
「ねぇ、次の駅で降りて、おじさんと楽しいことしようよ…」
やめて、気持ち悪い、触らないで…。
視界が涙でぼやけていく。
「…ちょっと、おじさん」
「ひっ」
私の体から、手が離れたのと同時におじさんが短く悲鳴を上げた。
見ると、おじさんの手首をひねりあげる人の姿。
ーー青葉城西高校、バレー部主将…。
及川徹の姿が、そこにあった。