第1章 ヘタレ王子 〜月島蛍〜
今日は土曜日。
バレー部の練習が終わって、自分の部屋でいつものようにヘッドホンで音楽を聴きながら、バレー雑誌を読んでいると、誰かから電話がかかってきた。
その人だけ、着信音を変えていたから、すぐにわかった。
画面を覗くと、案の定。
幼馴染の結木 心からだった。
『蛍くーーんっ?今何してた??』
「……別に、何でもいいデショ」
ぶっきらぼうに返すと、電話の向こうで心がくすくすと笑っているのがわかる。
「…何笑ってんの」
『いやー?…きっと、音楽とか聴きながら、雑誌読んでたんだろうなーって、思って!』
「うわ、怖っ…」
自分のしていたことを見事に当てられて、僕は眉間にしわを寄せながら、電話の向こうの心を罵る。
『あー…いま、すっごい嫌な顔してるでしょ〜
蛍くんのことは、何でもわかるんだから!』
……ほんとに?
僕のこと、わかってる?
少しだけ、もやもやとした気持ちのまま、心の話を聞き流す。
『…でね!いまから蛍くんの家、お泊まりに行くから!!』
「………ん?何、なんでそうなるわけ」
どうやら、心の話によると、今日は親が出張で家にいないから、ひとりで寝るのが寂しくて、僕の家に来たいんだそう。
『ねっ、ねっ、お願い!
コンビニでケーキ買っていくから!!』
「…はぁ、そんなの要らないよ。
夜に出かけるとか、危ないデショ…」
深くため息をつく。
「もうわかったから、家にいて。
隣だとはいえ、夜なんだから」
心にそう言って、電話を切った。
全く、手のかかる幼馴染みだ。