第2章 雨と涙は同じ色 〜黒尾鉄朗〜
強く体が引き寄せられて。
気が付くと彼の腕の中。
痛いくらいに抱き締められて、息が詰まる。
心なしか、私を抱き締める黒尾くんの腕が、かすかに震えているような…。
「…俺は、まだ…何にもお前に、話してねぇよ」
途切れ途切れの彼の声。
ゆっくりと、自分の気持ちを確かめるように吐き出されるそれに、私は身動きが取れなかった。
「気がついたら、目で追ってたんだ。
授業中に当てられても、難なく答える姿とか…
かと思ったら、ちんぷんかんぷんな答え言って
クラス笑わせたりとか…。」
「風に揺れる、髪が綺麗だと思ったんだよ」
少しずつ、彼の腕に力がこもっていく。
大切そうに、愛おしそうに、私を抱き締める。
「…結木…、お前が、好きなんだよ…」
その声は掠れて、雨にまぎれそうなほど小さな声だったけれど…私の耳には、はっきりと聞こえた。
視界がぼやける。
嗚咽が漏れて、返事ができない。
『…なに、馬鹿言って…』
「本当に、好きなんだよ」
私を抱きしめながら、彼は話した。
この前黒尾くんに親しく接していた彼女は、1年の時に同じクラスだった子で、ずっと仲が良かったこと。
もう妹のようなものだって、彼は必死に伝えてきた。
「……だから、お前だけなんだよ」
捨てられた子犬のような目を向けられて、笑みがこぼれる。
『…私も、ずっと、好きだったよ』
あの日と違って、頬を伝うのは冷たい雨じゃない。
あたたかい、涙。
空を見上げると、雨はあがっていた。
〜fin〜
→あとがき