第1章 あなたに出会う前
「ほら! さっさと歩くえ!」
わたしはふらふらしながら、主人である天竜人の後をついて行く。
「早くするえ! お前が遅いから、お父上様たちに置いて行かれたんだえ!」
天竜人は車代わりに乗っている男の顔を蹴飛ばしている。わたしはそれを見て、目を細めた。
ーー本当に嫌な奴だ。置いて行かれるのがそんなに嫌なら、自分で歩けばいいのに。そんな考えすら思い浮かばないのだろうか。
わたしは首に取り付けられている首輪を一瞥した。それは奴隷に取り付けられた爆破装置が備わっているものだ。これを付けられたら、逃げることはできない。仮に、天竜人を殺して逃げることができても……海軍大将に殺されるだけだ。
「……」
わたしは目に溜まった涙を堪えた。
ーーこれさえなければ……わたしは自由になれるのに……。
下唇を噛んで、顔を俯ける。道の傍らにいる人たちが頭を下げながら、チラチラと見てわたしたちが過ぎ去るのを待っている。
ーーこんな姿を誰にも見られたくない。この背中の焼け跡を誰にも見られたくない。このまま、一生を終えたくない。こんな奴に仕える一生なら、死んだ方がマシだ。こんな地獄なら、死んだ方が……。