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【WJ】短編

第8章 【甘】キスから始まる恋の話/牛島若利


 私には弟がいる。運動も勉強も苦手な私の弟とは思えない位出来た弟で、自慢の弟だった。強気で負けん気の強い所がまた可愛くてたまらなかった。そんな可愛い弟が、バレーの名門校である白鳥沢学園に入学し、二年生乍にして、正セッター。聞くところによると、バレー部レギュラーでスポーツ推薦でないのは弟の賢二郎だけならしい。
 実家に住んでいた頃はよく大会の試合を見に行っていたが、短大卒業後、東京の会社に就職した私は、賢二郎が白鳥沢に入ってからの試合を見れていなかった。
 なんとか連休を取ることが出来、久しぶりの帰省は春高予選の真っ只中。可愛い弟の勇姿を見ようと張り切って応援に向かった。

 久しぶりに見る弟のバレーに私は驚いた。中学の時は、なんか、もっとこう、攻めるようなバレーをしていた印象があったのに、なんというか、今の賢二郎のバレーは、前とは違う。あの一番の人を引き立たす為だけに、エースという主役を魅せる為だけにいる存在になっているように見えた。あの、一番の人が多分、賢二郎が受験前に言っていた、トスをあげたい人なんだと思う。きっと、彼にトスをあげる為に、プレイスタイルが変わったんだ。あの、賢二郎が誰かの為に自分を曲げるなんて、と感動したのも束の間、私は偶然聞いてしまった。


「お前は道を間違った。もっと力を発揮できる場所があったのに取るに足らないプライドの為にお前はそれを選ばなかった。」


 白鳥沢のエースであり、賢二郎が憧れの人でもある、牛島君は、青葉城西のセッターである及川君にそう言ってるのが聞こえた。それは、多分、どうして白鳥沢に入らなかったのかという意味で、その言葉がセッターとして賢二郎は力不足だと言っているように聞こえた。弟は、牛島君にトスをあげたくて頑張って頑張って勉強して、そして白鳥沢に行ったのに、賢二郎じゃ役不足だって言うの?
 それが悔しくって、牛島君の前に飛び出して、その頬を思い切り引っぱたいた。それに対し、牛島君は顔色一つ変えなかった。


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