第1章 【切甘】私だけが言えない言葉/及川徹
私は、私以外の女の子が、羨ましくて、仕方なかった。
「及川さーん!」
朝練から女子の黄色い声援。徹がいつものふにゃっとした笑顔で手を振れば、女子達はきゃーっとまた声をあげる。
「徹!」
私が声を掛けると、徹は私の所へ走ってきた。
「遥香、朝練見に来るなんて珍しいね。俺のカッコいいプレイ見たくなっちゃった?」
「は?」
私の睨みにも怯まず、徹はにこにこと笑顔を絶やさない。
「弁当。」
「あ、俺忘れてたっけ?」
「うん、オバチャンが朝うちに持ってきた。」
そう言って、徹のお母さんから預かったお弁当を徹に渡した。
「ねえ、あの人ってもしかして、及川さんの彼女?」
「あー、違うよ。及川さんの幼馴染みで、家が隣同士なんだってー。」
「えー及川さんの幼馴染みとか、超羨ましい。」
羨ましい?私は、徹と幼馴染みなんてなりたくなかった。私からしてみたら、徹のことを正々堂々と応援して、徹に好きだと伝えられるあなた達の方がよっぽど羨ましいよ。もし、告白してフラれたとしても、元の関係に戻れるけど、私の場合は違う。もし、徹に告白なんかしたら、徹は私のことを振ったあとに、幼馴染みとしては扱ってくれない。私が好きだと伝えた段階で、私と徹の関係は崩れてしまうんだから。だから、今まで徹が告白されて、彼女が出来ても、私はそれをただ黙ってみてることしか出来なくて、一緒にいるのが苦しくて、徹が彼女と別れればそれを喜ぶ自分がいて、でも、やっぱりそこから何かが変わることはなくて、きっと、これからも私はそれを徹の隣で見てないといけない。だから、幼馴染みなんてなりたくなかった。