第26章 【甘】その距離、0cm/瀬見英太
「男同志でそんなのやっておかしいでしょう!?」
五色君、いや、全くその通りだ。ていうか、誕生日なのにそんな事をやらされる瀬見さんの気持ちにもなってみてくださいよ天童さん!こんな悪ふざけ、間違えなく瀬見さんではなく天童さんの思いつきだろうし。
「若利君はサッとやって見せたけど、工は出来ないんだね~?それなら仕方ないか~。」
「牛島さんに出来て俺に出来ない事なんてありません!」
うわ!五色君のど阿呆!そんな所で闘争心に火をつけるな馬鹿!五色君は、両手を広げ、ボールを待ち構えるような姿勢で、さあ、来ーい!なんて言ってるし。これ、五色君がやっちゃったら私も逃げられないパターンだよ。
瀬見さんの方に視線を移すと、抱えたお菓子の中から一つ箱を開け、ポッキーを手に持った。うわあ本当にやるんだ。てか、瀬見さんも断って下さいよ、なんて思ったのに、二人は一本のポッキーの両端を咥え、無情にも始まってしまったポッキーゲーム。
男同志のポッキーゲームなんて絵面、それはそれは気持ち悪いだろうと思ったのに、あれ?嘘、気持ち悪いどころか、美しいと感じてしまった私は新たな世界への一歩を踏み出してしまったのだろうか。瀬見さんは美形で女子からの人気も高い。五色君も黙っていれば可愛い顔立ちだし。そんな二人が一本のポッキーを咥えてる姿に見とれずにはいられなかった。が、それは一瞬の事。ポッキーを咥えた瀬見さんが物凄い勢いでポッキーを食べ進める。え、ちょ、待って!嘘でしょ!?どんどん短くなっていくポッキー。五色君がそれに驚いてか、後ろに下がり、パキッと音を立てて、ポッキーは折れた。
「はい、工の負けー。」
「ちょ、瀬見さん…!なんで…っ!?」
「なんでって、そういうゲームじゃん?」
顔を真っ赤にする五色君。それに引き換え、瀬見さんは何事も無かったかのように爽やかで普段通り。
「俺、負けるの嫌だし。」
それはつまり今、五色君が引かなければ、別にキスをしても構わないと言う発言。カッコいい台詞の筈が状況が状況だけに、素直に瀬見さんカッコいい…なんて思えなかった。