第18章 【甘】アルコールに押された背中/牛島若利
久しぶりに友人と食事を取り、楽しい一時にお酒も進み、久しぶりに呑んだこともあってか、今日はやけに酒の回りが早く感じた。店を出る頃にはすっかりべろべろに酔っ払ってしまい、同じ位呑んだ筈の彼女は涼しそうな表情で大丈夫?なんて聞いてくる。それに少し呂律の回らない言葉で大丈夫と答えたが、足は少しふらつくし、どう考えても大丈夫そうではない。心配した友人がタクシーを呼んでくれ、家まで付いてきてくれた。ふらつく私は彼女に肩を借りながら、おぼつかない足取りで階段を登った。そして何故か彼女は部屋のチャイムを鳴らす。一人暮らしなんだからチャイムを鳴らしたところで誰か出てくる訳でもないのに。なんて思って鞄から鍵を取り出そうと鞄を漁るが鍵が見当たらない。すると、部屋の扉が開いた。扉を開けたのは牛島君だった。
「え?なんでウチに牛島君いるのー?」
「ここは俺の家だが?」
部屋の番号を見ると、それは確かに牛島君の部屋の番号だった。
「もう、私の部屋隣だよー。間違ってるー。」
何が面白いという訳ではないのだが、酔っ払った私は部屋を間違えた友人が面白くて笑いながら彼女を叩いた。
「牛島君、この子鍵会社に忘れたみたいだし、御覧の通り超酔っ払ってるから後は宜しくね。」
トンと彼女に背中を押され、足取りのおぼつかない私はそのまま牛島君の胸に飛び込んだ。
「それじゃあ、また月曜日会社でね。」
そう言って彼女は去っていった。
「鍵ならちゃんとあるもーん。」
牛島君に体を預けながら鞄を漁るが鍵が見つからない。おかしいな、確かに鞄に入れた筈なのに。
「あれ?おかしいな?」
「取り敢えず中に入れ。」
牛島君に促され、そのまま牛島君の部屋に上がった。そして、牛島君の部屋で鞄をひっくり返すが、財布、定期、化粧ポーチ、お弁当箱、ハンカチ。鍵だけがなかった。…なんで?
「あれー?鍵ないや。」
アハハと笑って見せたが、正直笑ってる場合じゃない。私は一人暮らし。中に誰かいるわけじゃないから、誰かが部屋を開けてくれる訳でもない。会社に取りに行くにしても、この足取りで会社まで辿り着ける自信が無い。