第1章 邂逅
「さにわ」
初めて聞いた単語をおうむ返しする。
「ええ、突然お引き留めしてしまって申し訳ありません。先ほども申し上げましたが、我々のいる2205年では国家公務員に分類される職業です。刀に宿る付喪神を顕現させ、歴史の改変を試みる者たちから過去を護って頂きます」
「…なんで私が?」
2205年?付喪神?歴史?
言いたいことや聞きたいことはいろいろあるがとりあえずこれを訪ねるのが精一杯だ。
信じられないことに、彼女は190年後の未来から来たと言う。
初めはそんな馬鹿なと思ったが、私のような学生に対する態度にしてはあまりに丁寧で物腰も低く、清潔感のある格好をしたを彼女を見てつい座り込んで話を聞くことにしてしまった。
「審神者の適性には、付喪神を顕現させる際に必要な霊力が多く関係します。様はそれが桁外れで高く、我々としましても非常に貴重な人材です」
「えっと…とりあえず親に聞いてみないと何とも」
見るからに怪しい勧誘を受けて返す言葉としては定石だろう。
きっぱりと断りたい訳ではないが。
「それについてはご心配なさらず。様の家にお伺いして、ご両親には既に同意書にサインを頂いております。本当はそこで様にもご説明をするつもりだったのですがいらっしゃらなかったのでこちらに」
彼女がカバンから出した書類には確かに両親のサインと印鑑。
「そうですか……わかりました、やります」
元より親の意見をなど言い訳にすぎなかった。
立ち上がり、お尻の砂を払いながら背伸びをすると彼女ーー暁さんは嬉しそうに目を輝かせてくれた。
「本当ですか!?ありがとうございます!それではあちらに車を止めてますので…」
彼女に声をかけられた時、今朝テレビで見た誘拐事件のニュースが頭を過ぎった。
それを見ながら朝食を食べ、物騒な世の中だなあと何となく牛乳を飲み干した自分の姿も。
けれど今あるのは今朝とは違う僅かな期待と、不安と、久しぶりのワクワク感と、それから今すぐここじゃないどこかに行きたいという漠然とした絶望だけだった。
冷たい潮風が髪に絡む。
目の前に広がる海に飛び込めば。