第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕
「…ごめん、飲み過ぎて記憶がないんだよね、昨日の」
「……、マジかよ」
「ほんとにごめん…なんでここにいるのか、わかんなくて」
ジャッカルはもう一度「マジかよ…」とうわごとのように繰り返して、それから額に手をやって、深呼吸ともため息ともつかない息を吐いた。
一秒、二秒、三秒。
続く沈黙の重さは、耳が痛いと思うくらい。
もう逃げ出してしまいたいと思ったとき、ジャッカルが「どのへんから記憶ないんだ?」と言った。
小さなその声がわずかに震えていると感じたのは、私の気のせいだろうか。
「…仁王と赤也の結婚の話は覚えてる。途中からジャッカルと隣になったのも覚えてるけど…そっから先は……」
ジャッカルはまた「…マジかよ」と口にして、「それ、結構最初の方だぜ」とため息混じりに言った。
シャワーを浴びていくぶんましになったと思っていた頭痛が、またぶり返してきたような気がした。
「柳生が電話で呼び出されて途中で抜けたのは?」
「…覚えてない」
「赤也の彼女が迎えに来たのは?」
「……それも。ごめん」
そうか、とジャッカルは言って、そこからは私に逐一確認を取らずに話を進めた。
途中、うとうとしていた場面もあったけれど、いつものテンションとほぼ変わりなかったこと。
お開きになったときには一人では歩けなくなっていたこと。
帰る方向が同じジャッカルが、必然的に私を送ることになってしまったこと。
タクシーの中で、私が突然「ホテル行こ」と言い出して困ったこと。
寝起きにあれだけ驚いたのだから、もう何を聞いても驚くまいと思っていたのに、そこまで聞いたときはさすがに「マジか…」と声が漏れた。
ジャッカルは「マジだぜ」と低く言った後、「証拠出せとか言われると困るけど」と表情を曇らせた。
ジャッカルに限って嘘はないだろう。
昔から嘘を吐かない男だったし、私はそんな彼が好きだったのだから。
「…それは大丈夫。ごめん、続き教えて」と促すと、ジャッカルは「ああ」と頷いて話を続けた。