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短編集【庭球】

第71章 いのち短し 走れよ乙女〔忍足謙也〕


心臓が一生のうちに打つ数は、生まれたときから決まっているという。
つまり、脈が早くなるとそれだけ命が短くなるのだ。

大阪へ引っ越してきて二カ月、私の心臓は毎日、間違いなく東京にいたときの二倍以上打っていると思う。
つまり、私の寿命は毎日二倍以上のスピードですり減っているということ。



「なあ、今朝の正門どうした?」
「昨日から考えててんけど、何もなさすぎたから『ネタ切れやぞアホ!』ってキレ芸やったら、校長ご満悦やったで」
「それほんま?! いつか使わせてもらうわ」


…なるほど、それなら私でもできるかも。

クラスメイトたちの会話に聞き耳を立てて、げんなりしながらもギャグの内容を記憶するというのが、最近の私の朝の日課だ。
登校するときに必ず通る正門は「つかみの正門」と呼ばれていて、挨拶に立つ校長先生の前で何か一芸しなければいけないという信じられないような校則がある。
これまでの人生、笑いとは縁遠く生きてきた私にとっては拷問でしかなくて、誰もいない早朝に登校して免れることにしているのだけれど。
もし寝坊してしまったら、いくつかストックがないと文字通り門前払いに遭ってしまう。
せこいとは思いつつも、こっそり参考にさせていただいているのだ。


この土地特有の──もしかしたらこの学校だけなのかもしれないと最近薄々思っているけれど──笑いへの厳しさ。
これが、私が寿命をすり減らしている要因の一つだ。

みんなが息をするように笑いを取りにいくということは転校してきてすぐに肌で感じたし、そのタイミングも二カ月間、それなりに場数を踏んでなんとなくわかってきた。
ただ、本気と冗談の境目というのはいまだにあやふやなままで、それが私にとっては何よりやっかいだった。
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