第66章 Flavor of love〔幸村精市〕
*原作の十五年後設定
「目覚まし、何時にしとく?」
「うーん、五時半くらいかなあ」
「…早いな、思ってたより」
私の回答に、ベッドに腰かけた精市は肩をすくめて苦笑した。
「精市はもっと寝てればいいじゃない」
「ひどいな、一人で寝とけって言うのかい? 俺がそれ嫌いなの知ってるだろ」
不服そうなその声に、今度は私が苦笑する。
本当は私だって、久しぶりに時間なんて忘れて、精市とベッドでごろごろしていたい。
こうして二人で過ごすのは久しぶりだし、スイートルームはいつまでいたって飽きそうにないくらい素敵な内装だし、ベッドは二人で寝ても余りある広さだし、お腹が空いたらルームサービスだってあるのだし。
でも、明日だけは何としても早起きしなければ。
「寝起きのむくんだ顔が写真に残るのは嫌だもん」と固い決心を口にすると、精市は「大変だな、花嫁さんは」と、また首をすくめた。
ただでさえ顔が小さくてスタイルのいい精市の隣に並ぶのにはそれなりの覚悟が必要なのに。
そんなことを思いながらむくれた私を、精市はくすくすと笑った。
花嫁さん──そう、明日は精市と私の結婚式だ。
中学で出逢った私たちはあの頃の倍、一緒に歳を重ねてきた。
途中、精市が病気で倒れたり、プロのテニス選手になって世界中を転戦するようになったり、そのおかげで遠距離になってしまったり。
私は私で、大学に行き就職をして。
精市とは違って平々凡々とした人生ではあったけれど、決して少なくない時間を二人で過ごしてきて、本当に数えきれないほどいろんなことがあった。