第65章 キスとデータは使いよう〔柳蓮二〕
恋をする喜びや苦しさを、あるいはそれを失う悲哀を、教科書は教えてくれない。
指導要領を改訂した方がいいと、私は本気で思った。
いや、こうして少し的外れなことを思わないとやっていられないのだ。
たかだか十五年しか生きていないけれど、私は今、これまでの人生で一番悲しいから。
「友達としてしか見られない、だって…」
改めて言葉にすると、本当に振られたのだということが嫌というほど突きつけられる。
そのせいか、彼の前ではなんとか我慢できていた涙が、堰を切ったように溢れ出した。
「…そうか」
柳は静かにそう言って、私の目の前にハンカチを差し出した。
それは使うのが憚られるくらいに綺麗にアイロンが効いていて。
つい受け取るのを躊躇したけれど、柳は「遠慮するな、まだ泣くつもりなんだろう?」と苦笑を浮かべた。
──いや、おそらくそうだった、のだと思う。
実際には涙で視界が霞んで、柳の顔はぼんやりとしか見えなかった。
ずっと、サッカー部の永井くんのことが好きだった。
三年になってクラスが離れてしまっても、すれ違えば言葉を交わす程度には仲がよかった。
誰にも打ち明けたことがなかったこの気持ちを柳に言い当てられたのは半年前、初めて席が隣になったときだった。
「…なんで知ってるの、そんなこと」
まさかばれているなんて思わなくて、ぎょっとしてそう言うと、柳は「やはり図星か、興味深い」と神妙な顔をしながらノートに何か書き込んだ。
驚きすぎて、「一つ教えておいてやろう、はぐらかしたいときははっきりと否定することだ。その返事は『その通りです』と言っているようなものだぞ」という、今思えば腹立たしいくらいのご丁寧な指摘にさえ、妙に納得してしまったくらい。