第30章 白鷲の交渉
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「申し訳ありません、天川夜琉を連れ帰ることができず…」
「もういい、下がれ」
「・・・はい」
白鳥沢の総本山にて、白布は縁側に座って話を聞く牛島に頭を下げていた。牛島は目を閉じながら聞いているが少し聞いただけで白布を下げた。
ふぅ…とため息をつく牛島の背後に白布ではない気配がした。
「…今さら何をしに来た。お前は破門された身だろ」
「嫌だな~、大事な元部下にずいぶんな言い方だネ~。若利君」
縁側に座る牛島の背後に現れたのは天童だった。
天童は後ろから胡坐をかいて座っている牛島の両肩から手を伸ばして牛島の身体を抱く形になって牛島に語り掛ける。
「ねぇ若利くぅ~ん、まだ怒ってる?」
「…何の話だ」
「またまたぁ~、怒ってるでしょ?12年前のことと最近のこと」
「怒ってなどいない。むしろ…すべては俺の責任だ。」
「相変わらずお堅いね~。…若利君夜琉ちゃんのこと好き?」
天童は牛島にしか聞こえないくらい小さな声でそう尋ねた。「あぁそうだな」といつのもごとくさらりと言うと、天童はまたニヤリと笑った。
「そっか、よかったぁ~」
何か安心したように牛島から離れた天童はまた立ち上がって屋敷から出て行こうとした。
「おい、お前何を考えている。」
「べっつにぃ~。面白くなってきたな~って思っただけ」
「…貴様、また…」
「もうやらないよ、12年前みたいなことは。」
「もう1つだけ言っていけ」
「ん~?」
頑固として姿勢を崩さない牛島は天童の姿を見ずに尋ねる。天童は身体を仰け反らせて牛島を見る。
「…お前は、及川と何をしようとしているんだ。」
「・・・なぁ~いしょ♡」
ニヤリと笑った天童にさすがの牛島もかすかな悪寒を感じた。その顔をする天童は、何をするか分からないからだ。
天童は、不敵な笑みを残して屋敷を出ていった
「…川西」
「…はい」
どこから現れたか分からないが、屋敷の廊下の角の陰から川西が現れた。
「…奴を見張っていろ」
「…承知しました」