第28章 黒猫と初恋
「…なんで会いてえんだ?」
『・・・。』
黒尾さんに睨まれたから、あたしは口をすぐに開くことができなかった。一度は振り返ったけどまた正面を向き直した。そしたら黒尾さんは裸体のあたしを抱きしめた。
「…怒らねえから、言ってみ?」
こういう時の大人って、絶対言うと怒りますよね?
・・・と思いつつも話さないといけないと思いあたしの思ったことを話した。
『あの…あたし、正直一番は及川さんと話したいんです』
「はぁ!?テメエ何言って…」
『ほら怒った!!』
抱きしめていた腕を緩めてあたしの身体を揺すろうとしたところをあたしは声を上げて止めた。それを聞いた黒尾さんは仕方なく言葉を止めた。
「…で、なんだよ」
『…あたしは、及川さんと話して…というか説得してこんなことやめてほしいんです。』
「お前を殺そうとしてるのにか?…なんでお前はそこまでするんだよ」
『…だってお母さんに言われてたんです。何があっても誰も恨まないでって。それは、お母さんが紫乃さんに言われていた言葉みたいなんですが』
そこまで言ったときに、黒尾さんははぁ…とため息をついた。
「お前、どんだけお母さん大好きなんだよ…。絶対に恨まないってなんで言い張ってんだよ」
『…黒尾さん、もしあたしが誰かに殺されたらどうしますか?』
黒尾さんの言葉を無視してあたしは質問を投げかけた。黒尾さんは黙ってしまった。静かな浴室に水が波打つ音しか聞こえなくなっていた。