第25章 生きてほしい
ポーン・・・
相変わらず本社室のソファに体育座りで座っているあたしの耳にエレベーターの音が聞こえた。
松川さんが慌てないから、きっとあたしの迎えがきたんだと思う
・・・それが誰かはだいたい予想がつく
「お邪魔しま~す」
「遅ぇぞ、先に及川が戻ってこねえかヒヤヒヤしたぜ」
松川さんと会話している相手。見なくても分かる
一週間ぶりに聞いたその声に足を抱える腕の力が無意識に強くなった
その直後、あたしの背後に気配がきた
すごい高い頭上から見下ろされてる感じ
「おい、帰るぞ」
『・・・。』
あたしは膝におでこを付けたまま頭を横に振る
後ろにいたその人は、そんなあたしを見かねて左肩に手を置いて身体を揺すって無理矢理に体制を崩させた
「…早くしろ」
『・・・・・・。』
肩に置かれた手に圧力がかかった。あと声にも
それであたしも折れて極力その人・・・黒尾さんの顔を見ないようにして自分の荷物を持つ。
「…夜琉ちゃん、大丈夫?」
『…はい、華夜のことありがとうございました…。』
「うん、俺ならいつでも動けるから。いつでも頼ってきていいからね」
『はい…』
金田一さんに引き攣った笑顔を見せた。
そして、黒尾さんがエレベーターを開けて待っているから足早にエレベーターに向かう。
「じゃあ閉めるぞ」
そう言って黒尾さんがエレベーターのドアを閉めるボタンを押した時、エレベーター越しに松川さんと目が合った。
松川さんはあたしにニコっと微笑んでいた
さっきの金田一さんには笑顔を見せれたけど、もう作り笑顔も作れなかった。松川さんに頭だけ下げた瞬間、エレベーターのドアは閉まった