第39章 優しい手
「じゃあ心春ちゃん、こっちにおいで!」
夏実さんがバイクの後ろのシートをポンポンと叩く。
「はい。」
私は夏実さんからヘルメットを受けとり、後ろに座った。
「しっかり掴まっときなよ。危ないからね。ちなみにバイクに乗ったことある?」
「はい、日代君に何度か乗せてもらったことがあります。」
「そっか、なら少しは慣れてるんだね。」
そう言って夏実さんはエンジンを噴かし始める。
いつ聞いてもバイクのエンジン音はお腹のそこから響いているような気がして変な気分だ。
そのとき、私たちよりも先に日代君達のバイクが走り出すのを目で捉えた。
「じゃあ、行くよーっ!」
轟音と共に動き出したバイクはいつもの彼の運転より少し激しく感じる。
もしかすると日代君、いつも少しスピードを下げててくれたのかな。
でも夏実さんも決して危ない運転をしているわけではなくて。
何だか落ち着くなぁ、なんて考えていた。日代君の周りの人はそういう人が多い気がする。
日代君の周りはこんなに優しい人たちがいるのに…。
もう少し日代君もみんなに頼ってもいいんじゃないのかな。
みんなが日代君を気にかけていることに彼自身は気づいているのだろうか。
私は少し寂しくなった。