第37章 救出
「あー、そうか。歩きだったらこのまま行こうかと思ったけど、それならあの人呼ぶか。」
林さんは日代君を工場の壁に持たせかけて、スマホで誰かに電話をかける。
「もしもし?ああ、ちゃんと雅達を脱出させた。今からそっちに二人を連れていきたいんだけど、バイクで迎えに来てくれないか。」
林さんは何を考えているんだろう。
私にとっては謎が深まるばかりだが、日代君はわかっているようだ。
「俺たちがケガした時に手当てをしてくれる人がいんだよ。多分、その人に迎えに来るように行ったんだな。」
日代君はそう喋り終えてから咳き込み始める。
「大丈夫!?」
ほぼ反射的に尋ねると、日代君はほんの少し微笑む。
「これくらい馴れてるから気にすんな。もっと酷ぇケガしたこともあるんだぞ。それに比べたらまだましだ。」
「でも何で迎え…。日代君と林さんが二人乗りすればその人のところに行けるんじゃ…。」
「何言ってんだよ。お前のケガも診てもらうんだろ。」
「ええっ⁉大丈夫だよ、私は…。そんな大して痛くないし。」
こんなのかすり傷だ。
「お前、気絶させられた間にどんな扱いされたかわかんねぇだろ。もしお前運ばれるときに地面に落とされていたりしていたらどうする。それにな、興奮しているときは痛みを感じなくても、後になってすげぇ痛ぇことがよくあるんだからな。それに…。」
日代君が私の右手をとって手首に指を走らせる。
「…っ」
少しくすぐったくて、思わず声が出そうになった。
「縄の後、かなり痛々しいしな。」
そう言って私の手を見つめる日代君の目線は、いつもと何か違うものに感じた。