第37章 救出
「久しぶりだな、向坂。」
林さんが日代君を殴り続けている向坂に声をかけた。
「誰だお前。」
向坂は動きを止め、目を細めて林さんを見る。どういう者か見定めているようだ。
腕で顔を守っていた日代君は林さんの姿を認めて、唖然としているようだ。
「あんなに憎んでいたくせにもう忘れたのか。俺は林だよ。red crashの元リーダーの一人だ。」
向坂が大きく目をみひらく。
「今日はよくも俺のかわいい後輩と、後輩の友達をいじめてくれたな。そんなことしたらどうなるのか解っていてやってんだろうな?」
向坂は気まずそうに押し黙っている。
林さんは向坂の近くに川島と銀髪の男が倒れているのを見つけたようだ。
「俺たちのグループはたいていお前らのグループのやつらにいじめられたやつらばっかりだ。だからお前のとこにやり返しに行ったことは何度もあった。だけどな、」
林さんは少し言葉を切るとそれからは声のトーンがさらに低くなった。
「現役でもねぇやつらに汚い手で闘わせんな。現役は現役どうしでやってろよ。」
「うるせぇなぁ、お前だって引退してるくせして関わってくんなよ。うぜえんだよ!!」
向坂は照準を林さんへと変えたらしい。
勢いよく拳を振り上げた。
「…あ!」
私はその後思わず叫んでしまった。
林さんは向坂の腕を掴み、体を捻って向坂を地面に叩きつけた。
向坂の体は長年掃除されていなかった床に叩きつけられ、そこからホコリが舞い上がる。
みごとな一本背負い。
林さんは一瞬で向坂を伸してしまった。