第36章 危機
きっと日代君が前に言っていた、小学生のころから日代君をいじめてきた同級生なんだ。
確かその人はたちの悪い族に入ってますます暴力がエスカレートしたって…。
日代君からしたら一番関わりたくない相手だし、川島からすればずっと見下していた人から反撃を食らって屈辱的なことだったんだな。
それに最初と最後に闘ったってことは、日代君がred crashに入って初めての喧嘩で勝った相手で、さらにお母さんが亡くなる時に闘っていた相手でもあるってことだ…。
…複雑すぎる。川島が日代君に対して恨めしい思いを抱いてしまうこともわかるし、日代君が一番闘いたくない相手ということもよくわかる。
二人が拳を振るう音や、間合いを詰める音、拳がぶつかる音。
そんな音を聞いているとたまらなくなる。
「…グッ」
たまにうめき声が聞こえてくる。
「これで最後だ!もう二度と関わってくんじゃねぇ!」
しばらくしてそう日代君の声が聞こえて、人の倒れる音がした。
思わず振り返ると、川島がうつ伏せに伸びていた。
「…日代君!」
日代君は酷く体力を消耗していて、口から血を流し、今にも倒れそうだった。
あわてて駆け寄ろうとすると、誰かに腕を捕まれた。
「俺はタイマンでやりあうだけじゃ納得いかねぇなぁ!」
そこには怒りに満ちた顔で立っている向坂だった。
「お前らはちょっと強いからって調子にのりやがって。何度お前らのせいで惨めな思いをしたことか…!」
向坂の目は我を忘れているようにも見えた。
日代君は暴力を暴力で収めるのは結局正義ではないし、何ら解決しないと前に言っていた。
暴力は憎しみを生む。たとえ仲間の敵討ちだと言っても、暴力を振るったことは事実。
その事によって傷ついた人もいたんだ。
向坂はそういう人なのかな。