第35章 もう一度
「宮原。」
日代君は体を動かすのを止めて、私の方へとくるりと振り返った。
「何…?」
「お前、今から俺らがやること絶対みんなよ。」
「うん、わかった。」
前の時も日代君は絶対に闘うところは見せてくれなかったよね。
「お前には…。こういうのにはこれ以上巻き込ませたくねぇ。何か俺らの喧嘩を見せたらお前を本当に族の世界へ引っ張りこんだ気がして嫌なんだ。お前には血飛沫とか、腫れた顔とか…。絶対に見慣れて欲しくねぇ。」
日代君はそう言ってぎゅっと拳を濁りしめ、踵を返した後川島の方へと振り返った。
日代君の願い…。
今の私にできることは日代君の願いを守ることだ。
せめて日代君達が拳を振り上げるところを見ないでおこう。
私も日代君が苦しみながら闘うところは見たくない。
こんなの気休めでしか無いのはわかってる。実際には日代君はあの人たちと闘うのだし、私は日代君と関わっていくに連れて日代君の周りの人ともかかわることになる。
日代君はきっと私が力を振るったり振るわれたりするようなことが起きるのが嫌なんだろうな。
何で日代君はこんなに人のこと気にしてくれるんだろう。
一人の人を守り抜くので精一杯って日代君は言ってるけど、それは違うと思う。
きっと日代君が知らないうちに助けている人はたくさんいるんだよ。
日代君が硬い床を歩く音が響く。私は背を向けて、目を閉じその音を聴いていた。