第34章 まさかこんな時に
「強情なやつだな。これは少しは痛い目にあわないと吐かねぇな。」
銀髪の男はポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、刃先をこちらに向ける。
「これでお前をいたぶってやろうか?痛いだろうけど、これも日代と仲良くした自分のせいだな。」
と楽しそうにナイフをもてあそぶ。
「こいつの趣味はちょっと変わってるからなぁ。安心しろよ。深い傷はつかねぇし、死にもしねぇ。ちょーっと傷が多いだけだよ。」
向坂の言葉にゾッとする。
つまり半端な痛みで苦しませるというわけだ。
以前に拐われた時はまだまだ序の口だったんだ。
恐怖で涙が出て、視界がにじむ。
「そんなに怖がらなくたって大丈夫だ。死にはしないって言ってんだろ?」
「待てよ。お前ら。」
ヒヤリとナイフの先が腕に当てられたときだった。
静かに、でもよく透る声が聞こえた。この二人とは違って優しくて安心する声。
目線を上げるとやはり日代君だった。
でもいつもの日代君とは全く違う。目はつり上がっていたし、眉間に皺が寄っている。
今までになく酷く怒っていて、それでいて声は穏やかで。
その異常さで彼の存在感はいつも以上に大きかった。
まさか、こんな時にやって来るなんて。
日代君は私にとってはやっぱり正義のヒーローだ。
私も日代君を守りたいのに、どうして彼はこんなにも守らせるすきが無いんだろう。