第29章 彼の過去と後悔
「それは…何?」
「俺がred crashを辞めたのはな…。母さんが死んだからなんだ。」
「えっ、お母さん亡くなってたの⁉」
思い返してみれば、日代君の口からお母さんの話を聞いたことがない。お父さんと妹さんのことばかりだ。
「そうだ。今まで何も言ってなかったよな。悪い。」
私は首を横にふった。
言いたくなかったのだったら、無理して言わなくていい。
「言いたくなかったのなら、言わなくていいよ。それに友達だから隠し事なしってわけでもないしね。」
「俺はそんときred crashのことでかかりっきりになっててよ。母さんがガンになっていたことなんて全く気付かなかった。だから入院したと言われてもどうせ大したこと無いって決めつけて、見舞いも一つも行かなかった。」
「お母さんは日代君に打ち明けなかったの?」
「多分言おうとはしていたと思うな。でも俺は入院するって言われて、そうか気をつけろよってことだけ言って、すぐ部屋に引っ込んじまったからな。」
それがいけなかったんだ。とぐっと眉を寄せ、悔しそうな表情を見せる日代君。
「そもそもred crashに入ったときも、理由も何も告げずに髪の毛を茶色に染めて、母さんに何があったのか聞かれるのが嫌でずっと避けてた。」
日代君は次々と昔のことを吐き出していく。
「母さんが死んだ日、俺は他の族との喧嘩で母さんを看取ることができなかった。親父から何件も連絡が来ていて、母さんが死んだことを伝えられたときは呆然としたな。ああ、俺は何してたんだろうってな。」
日代君はお母さんが末期ガンだったことも知らず、お母さんに心配ばかりかけて死に目にも会えなかったことを後悔したらしい。
小さい妹さんのお世話もあるからred crashにいる余裕はなく、翌日にはred crashを抜けたらしい。