第9章 そして…
夢中で走って、ユメはアパートの自分の部屋にたどり着いた。
息が上がって、足がガクガクする。
でもそんなことより、抑えていた想いが溢れて、どうしようもなかった。
引っ越してから、まだ開けていなかったダンボールのテープを剥がす。
実家から持って来ようかすごく迷ったけれど、結局持ってきてしまった本。
“ドラゴンボール”。
「お願い! もう一度、逢いたい!」
ユメは本を目の前に、必死に願う。
「……トランクスに、もう一度逢いたい!」
久しぶりに口にした、好きな人の名前。
「逢って、謝りたい。……謝って、ちゃんと、気持ちを伝えたい!」
もしかしたら、許してくれないかもしれない。
行っても、もう会ってはくれないかもしれない。
自分のしてしまったことは、それほどのことだから。
でも。
「この想いを、トランクスに伝えたいの!」
だから、おねがい。
「トランクスに逢いたいよ―――!!」
――その時、視界が大きく歪んだ。
覚えのあるその感覚に、ユメは目を閉じる。
誰もいなくなった部屋で、雫がひとつ、本の上に落ちた。