第9章 そして…
「で、でも、その……まだあなたの名前も知らないし……」
「これからお互いのことを知っていけばいいよ。それとも……やっぱり、好きな人がいるの?」
改めて真剣に訊かれて、ドキリとする。
好きな人……?
――オレ、ユメのことが好きです――
その時、頭に浮かんだのは……あの人。
ずっと思い出さないようにしていた、あの人の笑顔。
強くて
優しくて
でも、弱くて
守ってあげたくて……
――これからも、そばにいて欲しい――
……ずっと、そばにいたいと思った。
私の好きな人は……。
「ごめんなさい!」
ユメは頭を下げて、公園を飛び出した。
後ろで上がった慌てた声も、ユメにはもう、聞こえていなかった。
……思い出さないようにしていた。
あの4日間を自分から、ただの夢にしようとしていた。
何であの世界に行けたの?
何であの人に会えたの?
何の為に、私はあの世界に居たの……?
そんなことはわからない。
ただ、あの人を守りたかった。
あの人に幸せになって欲しかった。
……好きだから。