第9章 そして…
あの事件。
……あの、今では夢のような4日間をユメが過ごしている間、こちらの世界ではユメの危惧していた通りの事態になっていた。
向こうの世界に居た4日間、ユメは行方不明ということになっていたのだ。
部屋で泣いていたユメを見つけた両親は、すごく驚いて、泣いて喜んだ。
両親にあんなに強く抱きしめられたのは、何年ぶりだっただろう。
一体どこに行っていたの、という皆の当然の質問に、ユメは「何も覚えていない」と答えた。
……もちろん嘘。
忘れるわけがない。あの4日間を……忘れられるはずがない。
でも、誰にも本当のことは言えなかった。信じてもらえるわけがないと思ったから。
そしてユメ自身も、あの時のことが真実だったと言える自信が、無かったから。
……何もなかった。
あの時、あの場所にいたという証拠が。
あの人と、一緒にいたことを証明できるものが、何一つユメには無かった。
ただ根強く残っていたのは、後悔と、罪悪感。
……あれから一度も、彼の登場するあの本は開いていなかった。
「あ。ほら、またぼーっとしてる! ホント最近多いよー。ユメ、大丈夫?」
下校途中、ミクが心配そうに言ってくれる。
「なんか悩みがあったら言ってよね! 相談乗るよ」
「ありがとミク」
笑顔を返すユメ。すると。
「あ! もしかしてユメ、恋してたり?」
「え!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
そんなユメの反応に、にやーっと笑う友人。
「そっかそっかぁ。ユメ、好きな人が出来たの! なーんだ、言ってよね、もう~」
「ち、違っ」
「誰、誰!? 私の知ってる人!?」
真っ赤になって否定するユメの言葉なんて聞いちゃいない友人は、楽しそうにどんどん一人で話を進めていく。
「でもあれだ。とうとうユメに“理想の人”以上の人が現れたわけだ!」
「え……」
「あのトランクス以上の人かぁ……」
ドキッ!!
心臓が跳ねた。