第9章 そして…
……あれから、半年の時が過ぎた。
ユメは大学に入学し、新しいスタートを切っていた。
一人暮らしもようやく慣れてきた頃。
今日もユメは講義室で一人ぼーっと空を眺めていた。
「ユメ! おはよっ」
「あ、おはよう。ミク」
「ちょっと聞いてよ! 私昨日さぁ……」
同じ大学に入学していた親友のミクが、いつものようにユメの隣の席に着く。
いつもと変わらない、友人との会話。
いつもと変わらない風景。
こうして友達と他愛のない話をして、教授の退屈な講義を受けて、バイトのある日は一生懸命働いて、そしてアパートに帰る。
その繰り返し。
疑問に思わずに過ぎていく……そんな生活。
少し前までは大学受験という難関に向かって一生懸命勉強していた。
他の事など何も考えずに、ただ勉強に夢中になっていた。
おかげで志望校に合格することができた。
自分でも驚き、両親も大喜びしてくれた。
そして今の生活に繋がっている。
と、
「ユメ? もー、またボーっとしてるー! 聞いてる?」
こちらの顔を覗きこむミク。
「え? き、聞いてる聞いてる!」
「本当~? ユメ、あの事件の後は人が変わったみたいにしっかりしてたのにさ、最近また前のユメに戻ったよね」
ドクン……。
「……そう、かな」
ユメは未だに動揺してしまう心を見せないように、応える。
「うん。私はその方がらしくて好きだけど。ユメ受験終わるまですごいピリピリしてたでしょ」
「それは……受験生なら皆そうでしょ」
「まぁ、そうだけどさ。――そういえば、あの事件から大分経つけど……まだ、思い出せないの?」
「……うん」
「そっかぁ。でもさ、ホント、ユメが無事で良かったよ! あの時は本当に心配したんだから」
笑顔でそう言ってくれる友人にユメは「ありがとう」と笑顔で返した。
心の中で、「ごめんね」と付け足して。