第8章 四日目の夜
昔から大好きだった物語。
その中に、気が付いたら居たこと。
そして、帰る時が近付いていること……。
トランクスはその間、何も言わずただ聞いてくれていた。
「――それで、もう、いつ戻っちゃうか……わからないから、」
真っ赤になった顔で、最後に一番伝えたい言葉を口にしようとするユメ。
「私、ずっと、トランクスが……」
だが。
「ちょっ……と、待って」
トランクスが、ユメの話を初めて遮った。
額に手をあてて、ユメから完全に視線を外し、必死に何かを考えている様子のトランクス。
「トランクス?」
ユメはこのとき初めて、彼の様子がおかしいことに気付いた。
「えっと、……この世界は、ユメの世界の物語の中の世界って……こと……?」
ユメに、というより、自分に確認するように小さく呟くトランクス。
そして。
「なら、この世界は……」
「!!」
自分の口を押さえるユメ。
言ってしまったことの重大さにやっと気付いた。
トランクスの表情がみるみる強張っていく。
「オレも、物語の中の、人間? ……この世界の、歴史も?」
「ぁ……わた……し」
私は……今、何を言った?
自分のいる世界が、物語の中のものなんて、そんなの誰だってショックを受けるに決まっている。
特にトランクスの生い立ちは壮絶なものだったのだから……。
絶対に、言ってはいけなかったことなんだ……!
「ごめ……! トランクス……私……っ」
謝って済む問題じゃない。
後悔しても、もう遅い。
自分のことしか考えてなかった。
――最低だ……!
俯き、呆然と立っていたトランクスが力無く口を開く。
「……ユメ、ごめん。オレ、ちょっとひとりで頭……整理する」
踵を返し、自分の部屋に戻っていくトランクス。
「ごめん……なさい……っ」
小さく掛けた声も、きっと彼には届かない。
その時。
トランクスの背中が、ぐにゃりと歪んだ。
視界が揺れる。
ユメは目を閉じ、ただ、身を委ねた……。